先天性門脈体循環シャント

先天性門脈体循環シャント

 本来、腸管から吸収された栄養素や毒素は門脈という血管を経由して、肝臓に行き、処理されます。しかし、この門脈と他の血管に通常では存在しない血管(シャント血管)が存在することによって、うまく肝臓に血液が行かなくなります。この病気を門脈体循環シャントと言います。

症状

 腸管から吸収された栄養素は門脈を通って肝臓に運ばれます。しかし、シャント血管があることにより栄養がしっかり肝臓に運ばれないため、発育障害を起こし、削痩が見られたり、体が小さかったり、小肝症が見られたりします。
 また、腸管から吸収された毒素は肝臓に運ばれ、肝臓で解毒されますが、シャント血管があることにより、肝臓で解毒されることなく全身に運ばれます。そのためよだれを垂らしたり、発作を起こしたりなど神経症状を示すことがあります。さらに毒素の一部であるアンモニアが高値となるため、尿酸アンモニウム結石が見られることがあります。

診断

 仔犬・仔猫で痩せている、他の兄弟にくらべて小さい、神経症状がある、膀胱結石があるなど、門脈体循環シャントを疑う症状がある場合は、まず血液検査を行います。
 ただ、症状が全くない子も多く、気づかずに大人になっている子も少なくありません。そのため、去勢手術や避妊手術などを行う際の術前の血液検査で必ずアンモニアの検査を行います。

1.血液検査

 疑う症状が存在する、もしくは血液検査でアンモニアの高値が認められた場合は、絶食時のアンモニアTBA(総胆汁酸)食事2時間後のアンモニアTBAを測定します。
 この検査で高値を示した場合は門脈体循環シャントを強く疑います。

2.レントゲン検査と超音波検査

 レントゲン検査では全体の状態や肝臓の大きさを評価します。さらに超音波検査では、肝臓の状態、結石の有無を確認します。
 最近の超音波機器の発達により、シャント血管を確認できることもありますが、複数ある場合があったり、正確な位置の把握が必要になるため、手術をするにあたって必ずCT検査を実施します。

3.CT検査

 手術に向けて正確なシャント血管の把握のためにCT検査を実施します。
 CT検査、造影検査を行うことでシャント血管の場所を正確に把握し、手術に向けての準備をより安全なものにします。

治療

1.手術

 治療は主に外科的治療を行います。
 CT検査で場所を特定したのち、状況に応じてアメロイドコンストリクター設置術、セロハンバンド法、結紮術などを用いて、シャント血管を結紮します。
 門脈体循環シャントの手術では、手術後に結紮後発作症候群という発作が起こる可能性があります。この原因はいまだ明らかにされていませんが、門脈体循環シャントの犬猫はベンゾジアゼピン受容体と結合する物質が多く存在し、これにより発作が抑制されており、手術によりこの物質が減少するため、発作が起きると考えられています。
 そのため術前や治療中にこの発作を抑える薬を予防的に投与して、なるべく発作が起きないようにしています。

2.入院

 術後は発作の有無や一般状態を確認しながら入院治療となります。

3.通院治療

 状態が安定してきたら通院治療となります。通院治療では症状に落ち着きはあるのか、肝臓の状態はどうかなどを血液検査や画像診断を行いながら、観察していきます。

症例

 トイ・プードルとマルチーズのミックスの男の子、6か月齢。去勢手術のためお預かりし、術前検査として血液検査を行いました。
 血液検査ではALTが185U/L、NH3が162μg/dLと高値であったため、門脈体循環シャントを疑い、TBA(総胆汁酸)を測定しました。空腹時のTBAは29.2μmol/L(正常値0.0~7.9)、食事2時間後のTBAは129.5μmol/L(正常値0.0~24.5)とかなり高値を示しました。

 強く門脈体循環シャントが疑われたため、シャント血管の位置を正確に把握するため、CT検査を行いました。
 CT検査で脾静脈と奇静脈にシャント血管があることがわかりました。

 根本治療としてこのシャント血管を閉じる手術が必要になるため、全身麻酔下で開腹手術を行い、シャント血管をアメロイドコンストリクターを用いて閉じました。
 アメロイドコンストリクターはアルファベットのC型をしている機材で、内側の部分が水分を含むことで徐々に血管を閉塞できるもので、急に門脈圧があがるのを防いでくれます。
 術中に血管造影を行い、正確にシャント血管を閉塞できているかを確認し、正確な血流が認められたため、閉腹して手術を終了としました。

 術後は抗生剤の注射や発作を未然に防ぐために少量の抗痙攣薬を投与し、特に感染や発作が見られることなく、無事退院いたしました。

前の記事

膝蓋骨内方脱臼

次の記事

11月6日休診のお知らせ